大阪高等裁判所 平成8年(ネ)2899号 判決 1998年7月31日
大阪市東成区玉津一丁目九番二八号
控訴人(一審原告)
東邦製鏡株式会社
右代表者代表取締役
井上圭司
右訴訟代理人弁護士
喜治榮一郎
大阪府八尾市楠根町二丁目二七番地一三
被控訴人(一審被告)
有限会社清宮貿易
右代表者代表取締役
清宮洋治
大阪府八尾市竹渕西二丁目九〇番地
被控訴人(一審被告)
株式会社ナカヨシ
右代表者代表取締役
中島義國
右両名訴訟代理人弁護士
小松陽一郎
同
池下利男
右小松陽一郎訴訟復代理人弁護士
村田秀人
右被控訴人ら両名補佐人
藤本昇
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して、五〇〇万円及びこれに対する平成六年七月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(当審において請求減縮)。
3 訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
二 被控訴人ら
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 当事者の主張は、次項記載の控訴人の当審における付加主張を加えるほか、原判決の「事実」欄の「第二 当事者の主張」に記載のとおり(ただし、差止請求に関する部分を除く。)であるから、これを引用する(ただし、原判決四頁三行目の「原告商品の形態を模倣して被告商品を製造し、」を「香港の商社を通じて控訴人商品の形態を模倣した被控訴人商品を製造させ、」に改め、同頁四行目の「被告清宮貿易から」を削除し、同頁五行目及び同五頁一〇行目の各「侵害している」をいずれも「侵害した」に改め、同六頁四行目冒頭の「を」の次に「製造し」を加え、同七頁七行目の「仮にそのとおりだとしても、」を「仮に若干の返品があったとしても、その筋の業者に一括して売却処分しているものと考えられ、いずれにしても、」に改め、同九頁九行目の「六」を「五」に改める。)。
二 控訴人は、原判決の判断に対して、要旨次のように不服の主張をする。
1 控訴人商品が出所表示機能を取得したかどうかを判断するに当たって控訴人商品の販売数量や宣伝活動を考慮する場合、増田が製造販売を開始した平成元年にさかのぼって、それ以降の販売数量等を基に判断すべきであり、また、食品サンプル業者である株式会社いわさきのアイデアと増田のそれとには基本的相違があるから、両者のアイデアが同一であり、その形態自体に独自の特徴があるというわけではないとするのは誤りである。
2 被控訴人らは、香港の商社であるフランコ・インダストリーズ・リミティッド(以下「フランコ社」という。)に控訴人商品の見本を提供し、これを型取りさせて製造を依頼しているものである。そのことは、<1> 被控訴人ナカヨシは、模倣製造に関与した事実を積極的に争っていないこと、<2> 被控訴人商品のケース面のラベルには「製造者この面に別記」と記載表示され、もう一枚のラベルには「企画・発売元 (株)ナカヨシ」との表示があること、<3> 控訴人代表者が被控訴人ナカヨシにクレームをつけたところ、後日被控訴人清宮貿易の清宮から電話があり、被控訴人ナカヨシと共同して製造販売をしている旨を容認した上で、このようなどこにでもある食品サンプルをまねしてどこが悪いのかと反撃してきたこと、<4> 控訴人代表者は、平成六年六月ころ、近畿観光土産協同組合の理事長から、清宮から控訴人の品物をまねて作って苦情が出て困っているとの相談を受けたという話を聞いたこと、<5> 被控訴人商品の種類が「シャケ」、「メザシ」、「タコ」、「ちくわ」といった日本人好みのアイテムであることは、被控訴人らがフランコ社に指示して日本人向けに製造させたものであることを推認させること、<6> 被控訴人らからのまとまった発注もない時点で、香港商社であるフランコ社でコストの掛かる金型を製作していたというのは不自然であること、<7> 被控訴人らが仕入先の香港商社(フランコ社)の名称を開示しなかったことなどからも明らかである。
第三 証拠
本件原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人の本件損害賠償請求は理由がないものと判断する。その理由は、原判決の「理由」に説示するとおり(ただし、差止請求に関する部分を除く。)であるから、これを引用する(ただし、原判決二三頁二行目の「株式会社」を「被告」に改める。)。
二 控訴人の当審における主張にかんがみ更に検討するに、まず、控訴人商品が出所表示機能を取得したか否かの認定に関し、控訴人は、控訴人商品の販売数量や宣伝活動を考慮する場合、増田が製造販売を開始した平成元年にさかのぼって、それ以降の販売数量等を基に判断すべきであると主張する。
しかし、本件において、控訴人は平成五年一〇月以降増田と独占的販売契約を締結して控訴人商品を販売しているにすぎず、増田の営業表示等を含め事業を一体として承継したものでもなく、増田と控訴人との間に事業主体としての一体性が認められるといった関係もないのであるから、原則として、控訴人による販売数量や宣伝活動を基に控訴人商品の商品形態が控訴人の商品であるとの出所表示機能を取得したか否かを判断せざるを得ない。また、原審における証人増田の証言及び控訴人代表者本人尋問の結果によれば、増田は、平成元年ころから控訴人商品の製造を始め、フジミ産業等を通じてこれを販売しており、控訴人は、平成三年五月ころから控訴人商品の納入を受けて販売をしていたというのであるが、平成五年一〇月の独占的販売契約の締結前の増田又は控訴人による販売数量や宣伝活動を明確に立証するに足りる証拠はないばかりか、かえって、右各証拠によれば、増田は当初フジミ産業を通じて何十個、何百個という形で販売してもらっていたこと、まとまった取引先は三軒程度であったこと、控訴人との取引もそのようなものであり、独占的販売契約締結前の控訴人商品の販売数量は、それ以後の数量に比してわずかであったことが認められ、特段の宣伝活動もされていなかったことがうかがわれる。したがって、独占的販売契約締結前の販売状況を加味したとしても、控訴人商品が出所表示機能を取得したものとは認められない。
また、控訴人は、食品サンプル業者である株式会社いわさきのアイデアと増田のそれとには基本的相違があるなどとして、出所表示機能を肯定すべき旨を主張するが、具体的な相違としては頭の向きが食品サンプル用のものとは逆になっているものがあるといった程度のものにすぎず、商品としては同一のアイデアに基づくものといわざるを得ず、その商品形態自体に独自の特徴があるということもできないことは、原判決の説示するとおりである(原判決二六頁一〇行目から同二八頁九行目まで)。
三 次に、控訴人は、被控訴人らは、香港の商社であるフランコ社に控訴人商品の見本を提供し、これを型取りさせて製造を依頼したものであると主張し、これに沿うかのような証拠(甲三七、三八、控訴人代表者の原審における供述)も存在する。
しかしながら、甲三七、三八は、いずれも伝聞証拠であり、これらに対する反対尋問の機会もないまま、これらを基に控訴人主張のような事実を認定することは困難といわざるを得ない。
控訴人は、前記第二の二の2記載のとおり、右主張を認めるべき種々の事情がある旨主張するが、<1>については、被控訴人ナカヨシも、原審において、被控訴人清宮貿易において控訴人商品を模倣して被控訴人商品を製造し、被控訴人ナカヨシにおいて被控訴人清宮貿易からこれを買い受けて販売したとの控訴人主張を否認しており、控訴人自身が被控訴人ナカヨシについては当初主として販売行為を問題としていたことや不正競争防止法二条一項三号、一号を請求原因として優先的に掲げていたことからすると、被控訴人ナカヨシが同項三号の適用がないことや控訴人商品が出所表示機能や周知性を取得していないことを専ら主張したことをもって、被控訴人商品の製造に関与したことを積極的に争っていないと評価することはできない。また、<2>についても、検乙一、検甲五の1、2、検甲六の1、2によれば、被控訴人商品をつないだ中紙の表に「酒の友」と表示し、裏面に「携帯用保存食品」、「原材料名 食塩、みりん、アルコール」等と記載して被控訴人商品をあたかも食品そのもののようにあしらい、その食品の製造者を「この面に別記」とした上、これを包装した包装用の透明ケース外面に付された正式の品名等のラベルに被控訴人ナカヨシの名を「企画・販売元」として記載しているにすぎず、このようないわば「遊び心」の中での表示を基に控訴人主張のような推認をすることは困難である。
<3>につき、控訴人代表者が被控訴人ナカヨシにクレームをつけたところ、後日被控訴人清宮貿易の清宮から電話があったことは、被控訴人清宮貿易代表者も認めるところであるが、同人は、被控訴人ナカヨシからの連絡を受けて、自分が過去に控訴人と取引をしたことがあり、控訴人代表者を知っているということで控訴人に電話をしたと供述しており、必ずしも不自然ではなく、その際、このようなどこにでもある食品サンプルをまねしてどこが悪いのかと発言をしたことがあったとしても、それは、直ちに被控訴人清宮貿易が被控訴人ナカヨシと共同して被控訴人商品を製造していることまでを容認するものということはできず、被控訴人清宮貿易代表者の反対供述に照らすと、清宮が被控訴人商品を製造させたと述べたという控訴人代表者の供述部分はにわかに採用し難い。
<4>の主張に係る理事長の話の内容たる事実は、前記のとおり伝聞証拠の中のものであって、にわかに認定し難いというほかなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。その他の<5>ないし<7>の事情から、被控訴人らが仕入先である香港商社(フランコ社)に指示をして被控訴人商品を製造させたという事実を推認することは困難であり、結局、被控訴人らの行為に疑いが残らないわけではないが、当審における控訴人の主張及び立証を加えても、なお被控訴人らの本件不法行為を認定するには足りないといわざるを得ない。
第五 結論
以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 川神裕)